ゼロハリバートンで旅に出ましょ
そもそもは10代の頃、あるスタジオで撮影をした時のことでした。
キャリアを積んだ大御所のカメラマンがカメラの機材をこのケースに何個にも分けて運んできたのを見て思わず目がくらんでしまいそうになったのが出会いです。ひとつひとつ、いろんな国の空港やエアラインのステッカーがついたまま。ケースも旅を続ければ続けるほど、ひとつとして同じもでではなくなり、個体として誰かが空港でぽん、と貼る、といった偶然性でデザインされていくのです。ステッカーだらけのゼロのケースを無造作に目の前に積まれた時にはその美しさにため息がでてしまうほどでした。アフリカ、インドネシア、フランス、ブラジル、オーストラリア、中東。世界各国にロケを重ねてどんどんケースが成長していくみたいに、男っぽくおおざっぱに使い込んでいく。ああ、かっこいい大人の世界です。砂漠を横切るラクダ達。灼熱の太陽の下でサンバを踊るダンサーや、マルシェでホームメイドのチーズと蜂蜜を買う老婦人。まだ行ったことがないというのに、このケースの存在がいつのまにか入り口となって、頭の中は世界の国々へとベクトルが光のごとく飛びました。なんでもアポロ11号で月面での採集用のケースにもなったとか。世界どころか宇宙にもいったことのあるケースに想いを馳せるのはかなりの時間が必要でしょう。まだその頃は外国なんか行ったことがなかったものだから余計にイメージの世界は広がるばかり。ヘップバーンの映画「シャレード」にでてくるようなジェットセット的な船旅用のヴィトンのスーツケースを重ねる素敵さにはあまり反応を示さなかった私が、なぜこれほどゼロのケースに釘付けになってしまったのでしょうね。
それは、朽ち果てることの美しさ、偶然がもたらす美しさということなのかもしれません。ステッカーをはったからといって、傷がつかないように大切にするわけでもなく、剥がれようが傷がつこうがそれも自分の旅の一部とするところが何とも人生観そのもののようで魅せられてしまったわけです。今ようやく私のゼロのケースはそれぞれ個性が出始めています。色褪せたジャマイカのステッカーは半分とれかかっているけれど、そのくらい遠い昔にキングストンの小ホテルで塩鱈のランチをほおばりながら真っ昼間にずっと小説を読んでいたあの時の部屋の匂いさえ連れてくるし、KLMというエアラインで二回目のアムステルダムに行った時、ジョンとヨーコがインタビューを裸で受けた部屋の窓から見えた白い景色、高校生の卒業パーティーにいきなり飛び入りしたりしてね。あのこたち、どうしているだろう、だとか。
まだ15年です。ゼロとの歴史は。さすがに頑丈で、中の物もしっかり守られるし、壊れないし、ステッカーだらけじゃ誰も盗もうなんて気もおこらないだろうし。
いろいろな意味で安心、そして大切な、これからどんな表情になるんだろうとどきどきさせられっぱなしの私の宝物です。願わくば、80歳すぎてもこのケースを持って着物をきて旅に出られるような人になりたいものです。私のオリジナル、それがこのケースにはたくさん込められています。



MUSIC
コンコルド
The modern jazz quartet
プリスティッジ
VICJ61054
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PLACE
空港。赤道直下の国。電車の車窓から

 
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